コード解析

「汚れた街」「Living For The City」アルバムバージョン ~ スティーヴィー・ワンダー Stevie Wonder

はじめに

スティーヴィーの名盤中の名盤の中の名盤『INNERVISIONS』に収録された、人種差別に立ち向かう曲です。

℗ A Motown Records Release; ℗ 1973 UMG Recordings, Inc.

歌い出しの時点でスティーヴィーさんそこそこ怒ってまして、
「あそこの父ちゃんはな、14時間働く日もザラやのに1ドル稼げるか稼げないかやぞ!」
「母ちゃんはといえばな、あっちこっち床磨きに行っても行っても1セントももらってないんやぞ!」
「とにかくウチらこの街でいっぱいいっぱいで生きとんねん!」(筆者訳)
といった具合です。
歌詞に込められた思いを声色を変えてストレートに伝えるシンガーとしての表現力、その感情と直結した熱量たっぷりの楽曲、、見事です。
メイン部はわりと典型的な泥臭いR&Bという感じなのですが、そのメイン部をつなぐブリッジでとてつもないクリエイティビティを発揮します。魂の叫びを旋律にするとこうなる、という感じ。私も初めてこの曲を耳にした時は、ちょっと身震いした記憶があります。喜怒哀楽、愛憎、幸不幸、言葉にしなくても音とメロディで表現出来ちゃうところこそが、まさにアーティストなんだと思います。

そんな怒り心頭の作品、コードを見ていきましょう♪
イントロはAメロと連続しているので省略。

コードの話

Aメロ

普通に書くとこうですが、G♭m7をA/G♭って書いてもいっしょで↓、

なんてことはない、ルート音はそのままに右手を上下にスライドしているだけであることが分かります。
鍵盤だとこんな感じでしょうか。

半音落としてKey:Gでコードネーム書いたらもう少しピンときますかね↓。いっしょか・・。

電子ピアノをお持ちの方はエレピの音で上記弾いたらいい感じになりますよ。同じ進行の繰り返しですが、表現力豊かなヴォーカルが聴き手をぐいぐい引っ張っていってくれます。

Bメロ

2小節だけ違う進行が挟まって、すぐに元の進行に戻ります。

D♭9なんていうコードが出てきますが焦る必要なし。実はここでも鍵盤の右手は上下にスライドしているだけです。

ほとんどの楽譜やサイトでC♭6→D♭6→D♭7のように書いてますが、右手の平行移動を繰り返しているこの曲の性質を踏まえるとD♭9の方が自然だし、そもそも原曲を聴いても9thの音(E♭)はしっかり鳴ってます。

さぁ、ブリッジ

いきますよ。この曲の魂が込められた部分です。

いきなりⅠ/Ⅶ♭で始まります。途中C/B♭も出てきてますが、そもそもスティーヴィーはこの和音が得意ですよね。で、Eから始まったルート音がまっしぐらにG♭まで下がっていきます。鍵盤ではこんな感じでしょうか。

なかなかお目にかかれない進行ですが、心に響く美しい旋律をこれに乗っけるあたり、ため息を禁じ得ません。

宇宙からダウンロードしたとしか思えん。

さらに、曲の中盤からブラス系のシンセが、なんとも不穏な空気感を持って乗ってきます。良くないことが街で起こってるぞって感じ。最後の方は救急車のサイレンのようなエマージェンシー的な雰囲気で迫ってきて、曲の世界観を絶妙に表現してると思います。

エンディング

魂のブリッジが何度かリフレインされたあと、エンディングに向かうわけですが、ここのコードはすいません、よく分かりません。ブリッジの最後、A→GといくところをA→G6→G/D→G→G/D→Gって感じでしょうか。どさくさに紛れて最後はG♭ではなくGで終わってる。
最後の最後、そのGコードの、スティービーの声だけによる極めて美しいハーモニーで曲は幕を閉じます。そこではすでに怒りは感じられず、「差別は無くなるはずだ、世界は良くなっていくはずだ」というひとすじの希望が表現されているように思いますが、いかがでしょうか?

おわりに

1973年4月に10歳の黒人少年が白人の私服警官に射殺されるという痛ましい事件が起き、スティーヴィーはその葬儀に参列したとのこと。そこから半世紀近く経った今も、同様の事件があとを絶たず、2020年にBLM運動が勃発したのは記憶に新しいところです。でもでも、スティーヴィーはことあるごとに各地各機会でこの曲を歌い続けているらしい。さっきのエンディングの項目で、この曲の最後はひとすじの希望が表現されているのでは、と書きました。渾身の希望を込めて、長きに渡って歌い続けているのだろうなと思います。

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